【短編】失った温もり
外界を遮断するかのような重いドアを押し開けると、ほんのりと温かな空気が体を包む。


「いらっしゃいませ」


カウンターの中からシモンが、抑揚のない声で迎える。
それに手を挙げて答える。


「久しぶり」


カウンターのいつもの位置まで歩く。キャンドルの揺らめく炎が、カウンターの棚にいびつな影を作り上げる。


その影がまるで今の自分自身みたいで、少し辛い。


なにを揺らめいているのだろう?
何に苦しんでいるんだろう?

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