キスが教えてくれたもの♪
山野ってことは、親戚か。
ベッドに横たわるその様子から、彼女はかなりの高齢者と見た。
婆ちゃんか?
あいつが毎日、クラブも休んで放課後通うのは、入院している祖母を見舞うため。
そう気づくのにさして時間は掛からなかった。
「お婆ちゃん、ご飯だよ。ベット、上げるね」
そんな掛け声と共に、ベットの頭が電動で持ち上がり、弱った老婆の顔がはっきり見えた。
どことなくあいつに似た顔立ち。
少し感じが違うのは、彼女がとても柔和な表情をしていたからかな……
「ほら、今日はお婆ちゃんの好きな鱈(タラ)のすり身だよ」
って、彼女の首もとにタオルを回し掛けて、今日の食事のメニューを一つ一つ説明する声が聞こえてきて。
こいつ、どんだけ苦労人なんだ……、って……
でも……
「お婆ちゃん、早く良くなって家に帰ろうね」
そう良いながら、スプーンで食事を口に運ぶ姿は、それはそれは幸せそうで。
「……」
老婆の喋る声は余りに小さくて、俺には届かなかったけれど、何やら楽しそうに談笑している様子が伺えた。
その様子から、二人がとても強い絆で結ばれているのが良くわかったんだ。