キスが教えてくれたもの♪


山之辺が飲み物を買いに病室を出ると、

「あたし、ずっと前から霧子さんを知ってます。

病院で何度も見かけたから。

お兄ちゃんが霧子さんのこと、好きなのかなって気づいて、凄く嬉しかった。

あたし……

お母さんが死んだの、もう知ってます。

誰もあたしを気遣って、はっきりとは言ってくれないけど。

ほら、この腕もまだこんなだし。

今までも、いつだって、あたしは回りに気遣われてばかりいて。

だからあたし、気付かない振りしてあげてるの。

あたしにとっては、動かない足に加えて、腕の一本くらい、動かなくなったってどうってことないし。

お母さんが死んだのは悲しいけど。

お父さんもお兄ちゃんもいるし……」


兄の居ない隙にと、焦ったように由紀ちゃんが早口に捲くし立てた。


きっと、兄の前では、無邪気な明るい妹でいたいのだろうと思った。
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