キスが教えてくれたもの♪


「霧子ってば、面白れぇ~、パブロフの犬みてぇだな」


――って、よだれは出ていませんが。


「よく考えたら、わたしお昼も食べてなかった」

山之辺の堪え切れない笑いが身体を通して伝わってきて、なんだかわたしまで可笑しくなる。

「笑わないでよっ! ほら、早く行こう!」

急き立てるように山之辺の手を引いて病院のから出ると、外は既に真っ暗で。

振り返って見える病室の明かりから、自分が取り残されたような不思議な感覚が湧きあがる。

空腹も重なって、わたしの不安はマックスに膨らんだ。


――可笑しな、一人じゃないのに。


「ねぇ、まさか、そのラーメン屋って遠いの?」


不機嫌さを装ったわたしの声は、少しだけ震えていたのかな。


「だよな、外出ると急に寂しくなる。わかるよ、霧子のその気持ち。

大丈夫、ラーメン屋はすぐそこだし。

俺がお前の傍に居る」


山之辺はそんなわたしのカモフラージュもお見通しみたい。

再び引き寄せられた山之辺の腕の中は温かくて、いつまでも縋っていたくなってしまう。

恥ずかしくて、思わず色気ない言葉を呟いていた。


「早くラーメンが食べたい……」


あいつの腕の中は、空腹が満たされるほどに居心地がよかったんだけどね。
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