キスが教えてくれたもの♪


席に着くなり、山之辺がフリーサービスの水を汲んできてくれた。


「常連なんだ」

「まぁな、よく世話になってる。俺は霧子と違って、家に帰って一人で飯作る器量もないしな」

「お父さんは?」

「親父は仕事で夜遅い」

ふぅん、と軽く頷きながら、今更ながら山之辺の家の事情を思い出していた。


わたしも薄情者だな、と苦笑する。

自分のことで手一杯で、相手のことを慮る余裕がなかった。

なんてことはない、ただのお子さまだ。


「ありがと、嬉しかった」

「え、何が?」

「連絡くれて。咲からもメール貰って心強かったし。

山之辺が来てくれて助かった。

一人ぼっちになるのかと思ったら、急に怖くなっちゃって」

「当たり前だろ?

彼氏なんだし……、あれ、違った?」

赤くなって照れる山之辺が可愛いと思うなんて、わたしもかなりこいつに慣らされてる。

「そっか、彼氏だったんだ」

「な、なんだ、その他人事みたいな言いぐさはっ!」

「客観的思考は大切だよ。特に非常時には」

「お前なぁ~」
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