キスが教えてくれたもの♪



振り上げた拳。

勿論、殴りかかるつもりなんてなかったけれど。

そうしないと、気持ちが収まらなかったんだ。



ところが、そいつはわたしの振り上げた拳を両手で掴むと、


こともあろうにわたしにキスをした。




「……っっ、な……」



もがけばもがくほど、そのキスは深みを増して……

仄かに香る、笹の香りが不思議と心地よくて……

身体からどんどん力が抜けていった。


「あ……」


と、わたしの口を割って入ってきた熱い物の感触に、我に返った。



「や、止めてっ!

いきなり何するのよ!」


ふいを付いて押し戻されて、そいつは悪びれもせずわたしから離れたけど。

その顔はどこか寂しげで、まるで泣きそうに見えたんだ。


「何って、見たらわかるでしょ。

キス。

俺のキスには癒しの力があるってさ。

お前超ラッキーじゃね。

ま、ほんとかどうかは俺には分かんねぇけどな」


そう言って口をぬぐったそいつに、ドキッとした。

本当なら怒りがこみ上げて然るべきなのに、わたしったら……



どうしようもなく時めいて、そいつから目が離せなくなった。
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