キスが教えてくれたもの♪

「お前んち、今日おばさん仕事だろ?」

「えっ、まぁ……」

「じゃ、お前んち行くか。この時間、制服でホテルってわけにもいかんだろ」

「いかんだろ……、って……」

「いやなのか?」

「いやってわけじゃ……」


わたしのあいまいな返事に業を煮やし、山之辺がその歩みを止めてわたしに向き直った。


「お前なぁ、こういうのはタイミングが大事なんだぜ。

タイミングを逃すと、ズルズルと先延ばしになる。

そういうの、身体に悪いだろ?」


やつは真面目な顔でそう言ってのけた。

――って、身体に悪いのはあんただけでしょっ!

成り行きに身を任せる、なんてわたしの納得がいきません!

でも……、

無言で睨みあげたわたしを、山之辺はしっかりと抱きしめて言った。


「俺はお前を愛してる。だから、お前の全てが欲しい」


耳元にかかるやつの吐息がわたしの気持ちを解きほぐしていく。


「山之辺……」

「いい加減、正哉って呼べよ」

名を呼ぶことで、何かが特別に変わるのだろうか?

「……正哉?」

「……霧子」

呼ばれて顔を上げると、嬉しそうに笑う山之辺がいた。

自然と重なった唇。

吐息は熱く、抱きしめられたその腕は力強かった。


運命に身を任せる、ならいいんじゃない?


そうわたしに思わせる程に、やつの腕の中は心地よかった。
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