キスが教えてくれたもの♪
「ん?」
と山之辺が振り向く。
そこには、いつも通りのやつの優しい笑顔があった。
だから、わたしは安心して口を開いてしまう。
「わたしは家庭の事情でもう長いこと、家事や食事の支度をずっとやってきた。
だから、今のこういう生活も全然苦にならない。
寧ろ、一人でいたころより、美味しく食べてくれる人がいる方が作り甲斐もあるし、感謝されれば嬉しいし。
でもあんたは、事故でお母様が亡くなるまで、ある意味普通に暮らしてきた。
学校帰りに買い物したり、食事を作ったり、休日は洗濯したり。
それは男のあんたにとって、非日常であって負担以外の何物でもないと思うから。
わたしが手助けすることであんたの荷が軽くなるなら、わたしは嬉しい。
でも、それがあんたの頭の中で結婚って形に結びついているのなら、間違いだと思う。
結婚なんてしなくたって、わたしはここに居るし、あんたの助けになりたいと思ってる」
できるだけ率直にわたしの気持ちを語る。
やつの気持ちを静めるために。