キスが教えてくれたもの♪

「ふふっ……、あたしのお願いはかなり実現確実なの」

静かに目を開けながら、由紀ちゃんが悪戯っぽく笑って言った。

「またどうせ、イチゴが沢山のったショートケーキが食べたいです、みたいなやつだろ?」

「えぇ~、そんな子供みたいなお願いはもうしないよ」

「じゃぁ、何だよ、言ってみろよ」

「願いごとは口にしたら駄目なの!」

お兄ちゃんてばホントわかってないんだから、と由紀ちゃんがむくれて山之辺を睨みつけた。


わたしは複雑な思いでその様子を眺める。


だって……、由紀ちゃんには神様にお願いしたいことがきっと一杯あるに違いないもの。

歩けるようにしてください、とか。

学校に行きたいです、とか。

お友達が欲しいです、とか。

究極、お母さんを返してください、なんてお願いを耳にしたら居た堪れなくなってしまう。

山之辺はきっと、由紀ちゃんが決してそんな願い事をしないとを知っている。

由紀ちゃんが、実現可能な小さな幸せを積み上げながら、今を笑って過ごしていることを知っているから。


強いな、二人とも。


胸がキュッと痛んだ。
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