約束【短編】
約束

「拓哉」

「なに」

「あの、夕飯が出来ましたよ。」

「ああ、うん。」


拓哉を真っ直ぐ見詰めながら言うと
彼は愛犬のサトチを見つめたまま
返してきた。


その声もどこか気が抜けたような、
無関心な感じがする。

・・・少し位こっちを向いてくれても
いいんじゃないだろうか。
なんて思いながらも彼は、私を見ない。

まるで、私なんていないかの様な、
ちらりとも振り向かない。

本当に私の声が聞こえてるのだろうかと
心配になる。
そして、さっきより小さな声で、
もう一度彼の背中に声を掛けた。

「あの、拓哉」

「なに」
また無関心な声で返事が返ってくる。
聞こえてはいるようだ。

でも、私を見ない。

「・・・冷めてしまいますから、
 お早めに。」
「うん」

「・・・・・・・」

試しにその場で数秒待ってみるが、
彼は立ち上がるどころか、
振り向きもしない。

・・・なんだか無性に悲しくなった。
私は一人で居間に戻った。
< 1 / 86 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop