約束【短編】
約束
「拓哉」
「なに」
「あの、夕飯が出来ましたよ。」
「ああ、うん。」
拓哉を真っ直ぐ見詰めながら言うと
彼は愛犬のサトチを見つめたまま
返してきた。
その声もどこか気が抜けたような、
無関心な感じがする。
・・・少し位こっちを向いてくれても
いいんじゃないだろうか。
なんて思いながらも彼は、私を見ない。
まるで、私なんていないかの様な、
ちらりとも振り向かない。
本当に私の声が聞こえてるのだろうかと
心配になる。
そして、さっきより小さな声で、
もう一度彼の背中に声を掛けた。
「あの、拓哉」
「なに」
また無関心な声で返事が返ってくる。
聞こえてはいるようだ。
でも、私を見ない。
「・・・冷めてしまいますから、
お早めに。」
「うん」
「・・・・・・・」
試しにその場で数秒待ってみるが、
彼は立ち上がるどころか、
振り向きもしない。
・・・なんだか無性に悲しくなった。
私は一人で居間に戻った。
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