ゆびきり
「でも、好きでもどう接したらいいかわからなかった。詩織にも、いきなり子供と接したことない自分が…分からなくて、仕事に逃げていたのは、俺もだな」






自嘲する政康の姿が、梨由の胸に痛いくらい沁みてくる。






ただ、愛情表現がわからなかった人。
だから、梨由も愛情がない旦那という存在でしかなかった。





でも、本当は違ったんだ。
表すことの出来なかった愛情が存在していたんだ。






それに気づけなかったことに、少し後悔する。






「でも、もう終わりだな。
俺も腹をくくる。でも、MISAはうちの事務所から抜かすわけにはいかない。これからも、しっかり頼むよ」






そう言って、初めて政康は微笑んだ。






今まで見たことない、柔らかな表情に、なぜか梨由は涙が溢れて声が出なかった。
ただ、頷くことしかできなかった。






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