ゆびきり
近くになると、昨日と同じように詠士がいた。







姿を見ると、緊張して足取りが重くなった。






会いたいはずなのに、やはり、昼の出来事を気にしてしまう。







そんな私に気づいた詠士は、私にむかって手を振ってくれた。







その姿をみただけで、さっきまでの不安が吹き飛んだ。







そんな自分の単純の単純さに呆れてしまうが、今はそんなこと、どうでもいいか。







「よう、昼はありがとうな」







触れないでおこうとした、話題からまさか入るとは思わなかった。







だんだんまた、気持ちが重くなる。







「あっ、ああ…びっくりしちゃったよ…」







ぎこちない返事しかできない。






「昨日会って、すぐまた会えるとはね」






私のぎこちなさにも、詠士は気づいていない。






この鈍感さが、私を苛つかせた。







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