私と彼の秘密の契約
ばっと顔を上げる。

聞いたことのある声。


「あっ、ありがとうございますっっ!」


本を拾ってくれたのは、なんと祐先輩だった。
心臓がドクドクと痛いくらいに音をあげている。

「ふふっ。君は良く落とし物をするね。」


先輩は私の大好きな笑顔で笑う。
まさか、覚えててくれたの。
名前まで知っててくれてるなんて!


顔が赤くなるのが分かって、恥ずかしさの余り下を向いてしまう。


「す、すいません!」


先輩はまたくすっと笑う。


「そんなに謝らないで。橘さん。」


「名前……」


なんで知ってるんですか?
って聞きたいのに、言葉が上手く出てこない。


「入試と、入学式の日にも俺に会ってるよね?」

「はいっ!その節はお世話になりました。」


「あはは。そんな堅苦しい挨拶やめてよ。俺、あんときから橘さん、可愛いなと思ってて、名前、調べちゃった。迷惑だったかな?」


その言葉にぶんぶんと首を振る。
迷惑だなんて……むしろ嬉しすぎて、どうにかなっちゃいそうだよ。



「じゃ、俺、部活行くから。迷惑じゃなかったらまた話し掛けてもいいかな?」


「はいっ、勿論です!部活……頑張ってください!!」



先輩は、私の大好きな笑顔を残して図書館を出て行った。




なにこれ!
夢みたい!!


先輩と話しちゃったよ!
しかも、また話し掛けていいとか聞かれちゃったよ!




さっきまでイライラしてたけど、今は塗師君に感謝。
だって彼が私をイライラさせなかったら先輩にぶつかる事もなかったかもしれないんだから。



先輩と話した興奮と緊張で全然本の内容が頭に入らない。


まだ全然読んでないけど、帰ろう。


私は読みかけの本を閉じた。
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