明治屋クラムジー
 

「八重!」
 

「お兄様!」
 

 
八重の暮らす平屋の奥から出て来たのは、従兄弟の河津弥一だった。
八重が密かに恋心を寄せる弥一は、とても温厚な性格で人望も厚い。そんな弥一の出現に、八重は驚いた。
 

それから、続くように部屋の奥から母親のミツが出てくる。
 

 
「お母ちゃん、お兄様が来るから早く帰ってこいなんて言ったのね?ちゃんと教えてくれれば良いのに」
 

「ごめん、ごめん。驚かせたくて」
 

 
ミツも弥一もおかしそうに笑っている。
八重は困ったように溜め息を吐くと、唐傘を閉じて草鞋を脱いだ。
それから三人で部屋の奥へと進む。
 

 
「八重、また背が縮んだか?」
 

「違いますよ。お兄様がまたお伸びになったんでしょう?」
 

 
弥一がからかうのは、八重だけだったりする。
座敷に入ると、弥一の母親の香絵もいた。
 

 
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