明治屋クラムジー
 

「香絵おばさん、お久しぶりです」
 

「八重ちゃん、お帰りなさい。ごめんなさいねえ、急に」
 

 
香絵が申し訳なさそうに、口元に手を当てて八重を見た。八重は「平気よ」と笑ってみせた。
 

 
「ところで……。どうしたの?今日は何かあるの?」
 

「ええ。……もう八重も十七になったわ。そろそろお嫁に行く頃かしらと思ってね」
 

 
ミツの言葉に、八重は絶句した。八重は、まだ嫁ぐことなど微塵も考えていなかったのだ。
 

 
「だから、ね。八重」
 

 
急に黙っていた弥一が八重に向き直り、八重も思わずそちらを見る。
それがとても重要なことのように思えて、八重は酷く喉が乾いた。
 

 
「お兄様……?」
 

「八重に、僕のお嫁さんになって欲しいんだ」
 

「……」
 

 
八重は、まさに開いた口が塞がらないという状態だった。
 

 
「私が、お兄様の?」
 

「ああ。八重は、僕のお嫁さん」
 

 
優しく微笑む弥一に、八重の胸が高鳴る。
昔に抱いていたであろう恋心が、再発したようだった。
 

 
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