Strawberry[更新停止中]

ピルルルルルルル‥‥‥


突如鳴り出した、シンプルな携帯の着信音がやわらかな静寂を破る。

ちっ、と小さな舌打ちが聞こえ、彼は立ち上がると向かい側のソファに放り投げてあったジャケットから携帯を取り出す。

頭を撫でていたあたたかな手が離れて、胸が小さく軋んだ気がした。


｢―――はい｣


少し低めの彼の声が、電話の相手が彼にとって歓迎すべきものでないのが伝わってくる。


｢‥‥‥昨日までに話はついたはずだろ｣


瞬間、胸がざわつく。

昨日まで――彼のいなかった理由が、電話の相手なの？

知りたい―――

誰？どうして？

彼のやさしい笑顔が消えるのが怖くて、さっきから聞けなかったこと。

聞いたら何かが壊れてしまうような気がして。
この曖昧な関係も、一緒に過ごした、やさしくてあたたかかった時間も。

何一つ、私たちの間には確かなものなんてなくて。
崩れゆくことにいつもびくびく怯えていて。

でも、どちらかがはっきりさせようとした時点で、この関係も終わってしまうんだろうと、頭のどこかでぼんやりと理解していた。

そして、今日もまた、何もはっきりさせないままに、このぬるま湯のような関係が続くことを願っている自分の汚さに、吐き気と息苦しさを感じた。