月の欠片
私は居てもたってもいられなくなって、
席を離れて非常階段に向かった。
好きな人と別れてまで、どうしてあんな人といなきゃならないの?
愛美の気持ちが理解出来なかった。
悔しくて哀しくて、どうにもならない感情がこみあげていた。
私は洸太に電話した。
仕事中なのはわかっていたけど、洸太の声が聞きたかった。
『もしもし?洸太…今、大丈夫?』
『梨花?なんかあったか?…ゴメン、今手が離せなくて…』
『…そっか、ゴメン仕事中に…』
『後で掛け直すから…』
(こんな時に話せないなんて…)
私は無意識に彼氏に電話していた。
『もしもし?…梨花ちゃん?どぉした、こんな時間に…仕事は?』
久しぶりに聞いた彼氏の声。
『…ううん、ただ電話しただけ。今週末、そっち行こうかなって思って…ダメ?』
『いいに決まってるよ!梨花ちゃん来るんだったら掃除しなくちゃ!…まだ少し早いけど、桜でも見に行く?』
『…うん、楽しみにしてるね、また連絡するから。』
(もう桜咲くんだ…)
気付くと季節は変わり始めていた。
彼氏とはしばらく会っていなかった。
愛美の事も、もちろん洸太の事も知らない。
私の事は何も知らないけど、一番愛してくれてるのは彼氏だった。