月の欠片
空になったグラスにノブが水割りを作ってくれている。
『梨花、何か話したい事あったんじゃねぇの?』
洸太が心配そうに聞いてきた。
『そう思ってたんだけど、洸太の顔見たら元気が出てどうでもよくなっちゃった〜』
私が笑いながらそう言うと、
ノブがグラスをコースターに置きながら、
『梨花に悩みなんてあんの?あるなら俺、聞きたい!』
そうやって、ふざけてくれた。
『ひっどぉー!一応、これでも悩みのひとつやふたつあるよぉ!!ノブ飲め!!』
私もふざけて返す。
ノブはチェッとか言いながらもまたグラスを空ける。
久しぶりに楽しかった。
お酒を飲んで、今日あった色んな事を忘れられるような気分だった。
ノブや洸太が気持ちを察して楽しませてくれてるのがわかった。
いい感じに酔い始めてきた頃、
気が付くと周りにはたくさんお客さんが入っていて、
ノブは接客に忙しくなって席を外した。
洸太がカウンターの下でノブから見えないように手を繋いできた。
私は手を強く握りかえしながら、
『そういえば、うちらの関係…ノブにはバレバレでした…』
私がそう言うと、驚いたような顔をしながら、
『なんだよ!もっと早く言ってくれれば良かったのに!俺、普通にしてなきゃって大変だったんだぞ!!』
そう言いながら、私の体を洸太の方へ引き寄せて
軽く唇に触れるようなキスをした。
『えぇ?洸太って絶対人前でキスしない人だと思ってた!』
思わず大きい声が出てしまった。
慌てて口を押さえると、
カウンターの向こうからノブが
『お前ら、俺の店でイチャつくな!金取るぞ!!』
って叫んでる。
私と洸太は一瞬、目が合ってから二人とも大笑いしていた。