月の欠片
営業が終わって、一人ロッカーで店長を待っていると、
片付けを終えた店長が入ってきた。
『梨花、待たせて悪かったな!店で話すのも味気無いから飲みにでも行くか?』
『はい…』
(改まって何だろ?)
黙って着いて行くと、静かなバーに店長は連れていってくれた。
『マスター、いつもの出して』
店長はこのバーの常連らしく、
マスターとは長い付き合いのようだった。
大人が仕事の疲れを癒すのにはピッタリな、
キャンドルの明かりが心地のいい
雰囲気のいいバーだった。
『店長、いつもここで飲んでるんですか?』
『まぁな…』
店長は煙草に火をつけて、
マスターに注がれたバーボンのグラスを傾けていた。
私も店長に付き合ってバーボンで乾杯した。
『梨花、お前さ…本当に今年いっぱいで辞めるつもりなのか?』
店長が静かに話す。
『…はい、正直迷ってます。この仕事好きだし…今の生活を捨てて知らない土地に行くことにも抵抗がないって言ったら嘘になりますね…』
私は素直に今感じている事を店長に話した。