月の欠片

その日は時間も遅くなったせいで、

あまり飲んで打ち解ける前に、

お開きになってしまった。


帰る前に、哲也が突然

『でも、久しぶりに梨花に会って思ったけど、やっぱお前って可愛いよなぁ。』

って訳のわからないタイミングで褒めてきた。



いつもなら、

『当たり前じゃん。』

ってシレっと交わせる言葉だったのに、


『…………』


思ってるように言葉が出てこない。


(なんだろぉ〜この空気…)


私は、妙に緊張する自分に戸惑っていた。



『うん、同級生が久しぶりに会って綺麗になってると嬉しいよね。』


【綺麗】そんな水商売なら、誰もが口にするような宮川洸太の台詞に、


私は、耳まで真っ赤になっていた───。




照れてる事がバレないように、

残りのジントニックを一気飲みして、


『帰ろう!!』


って勢いよく立ち上がった。






─それからは、帰り道に哲也と何を話したかとか

覚えていない。


ただ、家に着いてベッドの中で

忘れかけていた中学校の時の記憶を必死に探していた。




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