月の欠片
─仕事中も何だかずっと
うわの空だった。
閉店時間が過ぎ、店内はアフター狙いのお客さんが数人残ってるだけだった。
(早く帰らないかな…)
『…ちゃん、梨花ちゃんってば!!』
お客さんに呼ばれてハッとする。
『あぁ、ごめんなさい。何でしたっけ?』
『だ〜か〜らぁ、今日この後どっか飲みに行こうよって言ったの!!』
(ゲェ〜。今日は無理!どうしよ〜)
私は毎日お客さんを財布がわりに飲みに誘っていたせいで、
誘ってくるお客さんも多かった。
『あのぉ〜今日はごめんなさい、どぉしても外せない約束があって…』
上目使いで瞳をうるませながら謝る。
『えぇ〜!何だよっっ大事な約束って!梨花ちゃん、もしかして男じゃないよね?』
お客さんが明らかに不機嫌そうに言う。
(もぉ〜早く帰れ〜!)
『そんな事あるわけないじゃないですかぁ〜!今日は中学校の時の同級生のお誕生日会に呼ばれてて…大事な友達だから断れなかったんですぅ〜。』
(って大事な友達じゃないけど。)
心の中でプププって笑う。
『そっか〜、梨花ちゃんの友達なら仕方ないよなぁ〜次は絶対に付き合ってよ!』
お客さんは納得した顔をしていた。
『次は必ず!リカは○○さん一筋なんだから、また誘ってくれなきゃ嫌ですよぉ!!』
(あ〜もぅ!早くしなきゃ遅くなっちゃうよ!!)
左手の腕時計の針をコソッと気にしながら、
お客さんを何とか早く帰すのに必死だった。