遠恋
Ⅰ
長い靴紐
「いってきま―す!!」
元気に玄関を開けたのは
このマンションに一人暮らししている、
野口真帆(ノグチマホ)。
親が少し慌ただしく、
ゆっくりした生活が送れないだろうということで
激安マンションを借りて家を追い出された。
はあ~っと、ついため息が漏れる。
つい毎朝元気な声で『行ってきます!』と言ってしまうんだ。
これだから慣れって恐い。
そして悲しい。
いつも『いってきます』という声の後に聞こえてくるのは
パタンッと静かにドアが閉まる音だった。