龍とわたしと裏庭で③【黒魔術編】
「思い出したのかしら?」

甘く邪悪な声がささやく。

「そうよ。お前のせいで死んだのよ」


「違う」

圭吾さんがきっぱりと言った。

「龍は自ら君のために戦ったんだ。お母さんから託された君を守るために」


わたしは圭吾さんの顔を見上げた。


「彼女の言葉を信じるな。あんなふうになりたいのか?」


圭吾さんが指さす先には虚ろな目をした、老人のような村瀬さんがぼんやりと立っている。


「愛しているよ。僕を信じて」


圭吾さんが請うように言う。


わたしはうなずいた。


ええ 信じるわ


わたしに愛されたいと言った圭吾さんの言葉を

孤独だったわたしを思って流した圭吾さんの涙を

胸が痛くなるほど愛してるって言った時の圭吾さんの眼差しを


あなたが好き

大好き


わたしはもう無力な子供じゃない


「わたしは圭吾さんのものよ」


ささやくような声しか出なかったけど、その瞬間、何かが変わった。


絡みつくように頭に響いていた彼女の声が消え、代わりに海の匂いのする風が頭から足まで吹き抜けた。

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