龍とわたしと裏庭で③【黒魔術編】
「なんですって?」


「あなたがどこで呪術を学んだかは知らないが、呪詛というのは相手が呪いを受けているのを知らなければ成立しない。あなたが志鶴に紙人形で影を送りつけたのはそのためだろう? だが、それは同時にあなたの存在を僕に知らせる危険もはらんでいたんだ」


彼女は弾かれたように立ち上がると、後ずさりした。


「あなたは僕の呪縛の内にある」


「地獄にまします我等がサタン――」


「無駄だ。召喚する時間はない」


圭吾さんがもう一拍打ち鳴らす。


「禍(ま)が糸切れよ。禍が言(こと)枯れよ。禍が魂(たま)消えよ」


ヒッと短い悲鳴の後に彼女が喘ぐように上を向いた。

その口から無数の黒い蝶のような物が溢れ出てくる。


「疾(と)く去(い)ね」


圭吾さんの言葉とともに黒い蝶は羽音をたてて、悟くんの持つ絵に吸い込まれていった。


彼女が崩れ落ちるように床に倒れる。


「封じた!」


圭吾さんがそう言うと、悟くんはニッと笑った。


「圭吾、しづ姫の耳ふさいで――燃えよ」


圭吾さんが慌ててわたしの両耳を手でふさいで抱き寄せた。


何? 何なの?


ふさがれた耳にかすかに叫び声のようなものが聞こえた。

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