九弦堂のザッハトルテ
1個
見る影もない
溶けたものにチョコをかけ
こねくりまわし
また温め
魚屋さんの氷がスパイスとなり
異様な匂いを放つザッハトルテ
もう見なかったことにし
冷蔵庫に押し込む
もうお昼の時間だし
冷や麦を茹でることにする
「お義母さん!ご飯です!」
「あ、冷や麦かい?」
「はい、どうぞ」
「熱い時は冷や麦だねー」
チュルチュルチュルチュル
チュルチュルチュルチュル
「ご馳走様」
手を合わせて頭を下げる姑
「お粗末様でした」
そそくさと片付けを始めるわたしの背に
槍が刺さった
「ザッハトルテ頂こうかねー」