ひとりあがり。
バカ。
ワタシってほんとバカなんだと思う。

この声を聞いちゃえば、またグズグズなあの頃の自分に戻っちゃうのもわかっているのに。

興味が。
ワタシと別れた後のワタルの歌声が、どういう風に変わったんだろう?という興味が。

ワタシをバカにさせた。

「ダウンロードが完了しました。」

真っ黒だったケータイの画面に明かりが点いて、ワタルの歌がワタシのケータイに届けられた。

「俺の歌が着うた配信されます。」

今朝も。
いつものようにベットから起き上がって、ヤカンに火をかけたワタシ。

そして。
いつものようにお湯が沸くまでの間、ケータイのお気に入りリストに入れたワタルのブログをクリックした。

いつもなら。
昨日のライブはうまくいっただの、友情ってすごくね?だのウダウダ長々と書いてあったのに。

今朝に限って。

「俺の歌が着うた配信されます。」

そう短く書いてあったから。

チョット。

二度見してしまった。

もう一度、その1行を確認する。

不意に。
渋谷のクラブで歌っているワタルの姿が目に浮かんだ。

揺れるオーディエンス。
みぞおちに響く重低音。

そして。
ステージ上で必死に声を届けようとするワタル。

そんな。
1年前の夏の思い出が可愛い格好で手招きしたから。

バカなアタシは。

画面の案内に従って、ワタシは右手親指を這わせるように動かした。

「ダウンロードが完了しました。」

そう画面に表示された時には、熱さを我慢出来なくなったヤカンがピーッと鳴いた。

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