ひとりあがり。
ワタシの歌②

チーズケーキ

ランチには。
ワタルが良く行くと言うチーズケーキ専門店に行った。

ここは。
ランチタイムには、デザートにオススメのチーズケーキを食べられ、メインにパスタかドリアを選べる。

デザートがオススメのランチなんてワタシには初めてだった。

ワタルは、そんな少し変わったランチを好むセンスをしている。

スフレのチーズケーキは、本当においしかった。

ワタルは一番のお気に入りだと言うベイクドチーズケーキを食べていたけど。

正直。
スフレの方がワタシの好みだった。

「でも一緒に住んだらさ、もしチーズケーキ買ってくるにも、俺はベイクドチーズを買うからな。」

ワタルが言った。

「だったらワタシが、ワタルが参りましたって言うようなスフレを作ってあげる」

「スフレって普通の家で作れないんじゃね?」

「わかんない。でも練習してみるよ」

こんな会話が楽しかった。
ワタルとなら、細木数子を前にしたって笑っていられそうな気分だった。

「そうそう、一応ね、住民票取ってきたんだ。いつでも引っ越せるように。」

ワタシは鞄をゴソゴソと探った。

当時、ワタシとワタルは一緒に住もうと相談をしていた。

荻窪あたりに、少し高いけど、二人で折半し合えばナントカなりそうなアパートも見つけていた。

東京は。
特にワタルのように大きな夢を追う若者や、ワタシのようにフラフラしているフリーターにはとにかく生活にくい。

物価が。
家賃が高い。

少しでも生活を落ち着かせたい。バイトを減らしてもっと歌に専念したいってワタルから同棲の話があがった。

少し狭いけれど。
確かに二人で住めば少しは生活費が楽になりそうだった。

ワタシは、そんな切実な現実問題よりも、ワタルと住む。それだけの事で嬉しかった。

「その事だけどさ。やっぱり引っ越すのは難しそうだわ。」

ワタルが言った。

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