心はいつも、貴方とともに
責めるわけでもなく、アミリアはそう尋ねる。



ランバートは、黙って首を振った。



「いつも頭に置いているわけではないが、たまにふっと思い出す。
あの子が好きだった歌を聴いたときや、晩餐のデザートを食べたとき、顔はもう思い出せないのに、あの子が出てくるんだ。」



辛そうな声色に、アミリアは顔を上げた。



それに気付いたランバートが、哀しく微笑む。



「いっそ、お前の記憶を消してやりたいよ。」



苦しそうに、ランバートは続けた。



「昔から、姫はお前だけということにして、なんの呪縛もなく生かしてやりたい。」


「そんな…。」


「国民の期待を背負わせるなんてこと、させたくなかった。
そんな役割は、俺だけで十分だ。」



かすれた声に、アミリアは胸が痛くなった。



兄は、こんなにも苦しんでいた。



自分を心配して、苦しみを背負うのは自分だけで良いとまで言う。



記憶を消してやりたいのは、自分の方だ。



妹の影にいつまでも囚われるのは、自分たちだけで十分。



これは、アミリア達三つ子の問題なのだ。



「私達は、もう忘れるべきなのかもしれませんね。」


「なんだと?」


「あの子も、自分を思い出して苦しい思いをされるのは、望まないでしょう。」



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