心はいつも、貴方とともに
従順に、しかし不満げに、彼女は引き下がる。



ジークもつられて姿勢を正しながら、出てくる人物を待った。



「お久しぶりです、ジーク殿。」



暗闇から、白髪を綺麗に結わえたアミリアの第一乳母、マリアが姿を現した。



「お久しぶりです。」


「先程は下の者が無礼を申し上げました。」



そう言いながら、マリアはアミリアの前では決して見せない厳しい眼差しで壁際で縮こまっている乳母を睨んだ。



「申し訳ありませんが、姫は今、大変お疲れです。」



ジークは密かにため息をついた。



やはり、帰って来る返事は同じか。



「貴方様もご存じのように、姫は強いお方です。
すぐに立ち直られますわ。
しばらく、そっとしておいてくださいませんか。」


「わかりました。
…あの。」



ジークは頬を赤くしながら、そっと手に握った花を差し出した。



マリアはその意味を理解して、優しく微笑む。



「喜ばれますわね。」


「…お願いします。」



マリアは両手でピンクの花を受け取ると、そっとジークの耳元でささやいた。



「姫はこんなに素敵な方に想われて、幸せですね。」



今度こそ、ジークはマリアの顔を見れなかった。



前々からばれているだろうとは思っていたが、やはり…。






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