そのタグを外すのは誰だ!?
 ぞろぞろと視聴覚室を出ると、ゆっこが突然ふらりと千尋くんに寄り掛かった。

「どうした?」
 千尋くんは、ぎょっとしつつもしっかりと肩を掴み、ゆっこを支えた。

「暗いところから急に明るいところへ出たから、ちょっと立ちくらみが……」千尋くんの胸に顔をうずめて、ゆっこはさらによりかかる。

「それに……」
 ゆっこは顔を上げて、千尋くんの顔をじっと見ると、ぽろりと涙が一筋頬を伝った。

「え!?」
 千尋くん含むほか男子二名も、ゆっこの突然の涙に驚きの声を上げた。

「せっちゃんが可愛そうで……うっ」

 ゆっこはそう言うと彼の胸の中で小さく泣き出した。

 せっちゃんとは、さっきの火垂るの墓のことだろうか。

 呆れながら冷めた視線を送る女子たちとは正反対に男子たちは、わたわたとしていた。

 男は女の涙にこうも弱いものなのか?

「ど、どうしよう」
 千尋くんは、胸で泣くゆっこの肩を抱くわけにもいかず、腕を上げている。
 これが本当にお手上げってことだろう。

「気分も悪そうだし、ひとまず保健室に連れこう」
 備瀬くんが手助けしようとゆっこの右手を持とうとすると、するりと腕は備瀬くんから抜けて、また千尋くんの胸に押し当てられた。

「大丈夫……。千尋くんだけで」
 千尋くんだけでって。おい。お前、確信犯じゃねぇか。

「わかった。それじゃあ、ちょっと保健室連れて行くから、お前らほか回っててくれ。あとで連絡する」

 千尋くんは真面目にも、彼女の言うことを真に受け「大丈夫?」などと気遣いながら去って行ってしまった。
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