ねむたい、ぬくもり
「どんなに足掻いてもあの温もりはこの一瞬だけなんだ」

必ず神様は全部見ていて、あたしにそう囁く
結局それでも、確かに身体が温もりを欲しがってる
一人は嫌だ、寒いのは嫌だって
誰に言われなくたって自分が一番わかってる

なんてあたしは愚かなんだろう


「じゃぁ、気をつけてね」
「うん、ありがとう」

ライトが暗い夜道を照らして、闇に同化する黒い瀬戸山さんの車がゆっくり動き出す
あたしは手を振るわけでもなく、ただボーっとその車を目でおった

「家まで送るよ」

瀬戸山さんに言われたけど

「家近くなんで大丈夫です、歩いて帰ります」

と軽くてを顔の前で何度かふった
我ながら可愛げのないやつだとおもうけど、もう一度、瀬戸山さんがでもやっぱりと言ってくれても同じ返事を返した


小説たちが、どれもこれもハッピーエンドなのはどうしてだろう。

まっすぐ帰る気になれなくて、家とは反対の方向に歩き出しながら
そんなことを考えた。
昨日の夜、寝る前に読み終わった小説。
胸焼けするみたいな、甘くて幸せな結末。


「なにしてんの」


暗くて、静かな夜道。
突然、声が聞こえて思い切りビク、と背中を揺らしてしまう。
ぱ、と顔をあげると
金髪、ピアスジャラジャラ、ガムクチャクチャ、かおニヤニヤ、
そんな絵に描いたような、男がいた。

「帰るところです」
「えー、まじで?いっしょに遊ぼうよ」

いまどき、こんな時代錯誤なナンパがあったもんだ。
頭悪そう。
呆れるのと同時に感心する。

「もう帰るんで」

その男の横をすりぬけようとした瞬間、思いがけず、腕をつかまれた。

「良いじゃん、遊ぼうよ」


あれ、

腕をつかまれた条件反射で、相手の顔をみた瞬間。
あれ、と思った。


いきがった、悪ぶった、一番嫌いでうざいと思っているような、類のタイプ。
絶対こいつら頭悪いわ、そう思ってさけていた類。
よっぽどのことがないかぎり、かかわりなんてない。
そう思ってた。
だけど、
その人の目が
あんまりにも寂しそうだった。

にやついた口元、
だけど、目の奥がちっとも笑っていなかった。
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