大地くんの天気予報
立派な檜(ひのき)の所作台がある稽古部屋では、僕の叔父である“家元”が、ちょうどお弟子さんの稽古をしている最中だった。
三味線の音は、そこにあるレコードデッキから流れてくるもの。
その稽古部屋の様子を覗けるような形で、隣にはお茶の間のような控え室がある。
「あら、清風、帰って来てたの?」
「うん、ただいま」
僕がそう言ってそこに座ると、これもまたいつものように、和服姿の母さんが僕にお茶を入れてくれた。
「どうだった?新しい学校は…」
自分の分もお茶を注ぎながら、母さんが聞いてきた。
「うん。すごくいいクラスだったよ。さっそく友達もできたんだ」
僕が答えると、母さんは、もうすっかり慣れた質問を、ちょっぴり笑みを含みながら聞いてきた。
「…間違われなかった?」
僕もまた、すっかり慣れたように答える。
「間違われたよ。やっぱり、女の子みたいだ、って」
母さんは、黙ってふふふと笑った。
…その時、控え室に来客があった。