ミッドナイトレイン
「彼女がさ、」

あーやっぱり
絶対そうだと思った
敦くんには付き合って2年になる彼女がいる
2年経っても倦怠期なんかまるでないみたいに年中ラブラブで
彼女がこれまた可愛くてよい子で、それこそあたしの取り入る隙なんかない
自分の身分くらいわかってるわよ、これでも
だけど、一応一般的な恋する乙女とおんなじように
ダイスキな片思いの相手から、その彼女との話なんて聞きたくないんです

だけど乙女心は複雑で、ちょっと込み入った話をしてくれると
「嫌われてはないのかな」って嬉しかったりもするんです
ジワジワと体にアルコールが染みるのを感じながら、あたしはグルグルとそんなことを考える

どっちにしても、あたしは結局彼があんなふうに苦く笑うところを見ると胸が痛くてしょうがないので、
彼が話して少しは楽になるんだったら
彼の話しを聞くという選択肢しか残っていないんだけど

「うん、どうしたの?」

恋愛に関してばっちり無能なあたしは、出来る限りの優しい声でそう首を傾げる
よっぽど言い辛いのかまた少し空白
そして、、淳くんが口を開く

「彼女がさ、ずっと調子悪くてさ。微熱が続いてるんだよ。早めに病院行けって言ってるんだけど、なかなか行ってくれなくて」

やばい、
やばい種類の沈黙。
今度は私のグラスの氷がカラン、っと音をたてて崩れる。

「それは…辛い、ね」

胸がドキンってする。
重ね重ね、もっと気のきいた台詞はでてこないものですが自分。

また胸がドキンってする。


あたし今、すごく汚い事考えてる。
敦君の彼女が病気かもしんないとかの心配じゃなくて
そんな彼女を心配して、寝不足気味の敦君を心配するでもなくて

敦君に、これだけ思われてる彼女に
今更乍ものすごく嫉妬してる。
すごくすごく、羨ましい。



「ごめんごめん!!…って何しらけてんの!?」

沈黙を破るみたいに明るい声で、ケイコが席に戻ってきた。
途端、敦君がいつもの笑顔になる。

「おいおい、グラスあいてんぞー!!」


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