ミッドナイトレイン
片付けをしたあと、ケイコを起こしてすぐ隣のタクシー乗り場まで送った。
ケイコは眠たそうではあったけれど、意外としっかりとした足取りでタクシーへ乗り込んだ。
そしてあとは

「おーぃ、いい加減おきろ!!ケイコちゃんはちゃんと起きて帰ったよ!!」

揺すっても、たたいても起きない
というか完全に無反応。
しょうがないやつ、大きく一つため息を吐いて冷蔵庫から冷たいお絞りを一本とりだして
気持ちよさそうに眠る淳くんの額にゆっくりとあてた
お絞りが額に触れた瞬間、ピクと大きな肩が小さく揺れる
いつもおどけたり、なんか可愛い行動が多いからそんなに意識しなかったけれど
サッカーをしてたというだけあって、意外とがっしりしてる
静かに、規則正しい寝息だけが響いていた部屋のなかにもう一つ
あたしの心臓の音が加わる

このまま唇でも奪ってやろうか、
本気でそんなことを考えた
でも、それを邪魔するように頭を過ぎったのは
さっきまで幸せそうに彼女のことを惚気ていたこいつの顔。


結局あたしのことなんて良くて友達、まぁ無難なとこで職場の同い年のやつ。


わかってるし、だから何も望んじゃいない
今でもそれは変わらないし、彼女と淳くんのことを邪魔しようとも思わない
あたしはよいの、彼にも気づかれず
ただひっそりとあなたの行動に一喜一憂したいだけ
それもあなたが学校卒業して、バイトを辞める今年いっぱいの期限付き。

それだけ
それだけなのに、すごく苦しい
目の前に好きな人がいるのに、
手を伸ばせば届く距離なのに


これは恋だから
何も望んじゃないなんてウソだ
手を伸ばして、触れたい
あなたの笑顔がみたい



あなたの「一番」になりたいよ



切ない、切ない
ポロポロと、泪が頬を伝う感触
こんなことで泣くなんて、あたし馬鹿だ



今だけ、神様今だけで良いから
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