幻獣のタペストリー ~落ちこぼれ魔導士の召喚魔法~

 3

アルス村は五月祭の準備で賑わっていた。


五月祭を境に季節は寒季から暖季に変わり、放牧と種蒔きが始まる。

その年の豊作を願って、豊饒の女神ベルを迎える儀式を行うのが五月祭だ。

女の子達は十二歳になると、祭の当日に女神ベルを模して、緑のドレスを着て花冠をかぶる。

特に十五歳の少女は『五月祭の女王』と呼ばれ、幸運をもたらすと言われる。


「あたし、今年は緑のドレスを着ないわ」

ローズマリーが言った。

「婚約しちゃったし」


「じゃあ、あんたが今手直ししてるドレスは何?」

あたしはローズマリーが手にしてる緑の布の塊を指差した。


「メガンのよ。今年は『女王』なの」


メガンはショーンの妹だ。


「『女王』の年にお古のドレス?」


「これ、覚えてない? あたし達が十五の時のドレスよ。特別な年だからって、伯爵様があんたとお揃いであたしの分も作って下さったドレス。極上品だから着たいってメガンが言うの」

< 114 / 289 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop