幻獣のタペストリー ~落ちこぼれ魔導士の召喚魔法~
先代のアルス伯爵は、父の死後、あたしの母とお姉ちゃんを引き取りたいとファウラー卿に申し出た。

ファウラー卿は、先代伯爵が父の領地を狙っていると勘違いして、当時の王様に訴えた。

先代伯爵は領地には関心がない事を伝え、お姉ちゃんの相続権を放棄させ、

まだ生まれていなかったあたしについては、男子ならば伯爵家の養子に、女子ならば嫡男の妻とし、アルス伯爵の名誉にかけて相続要求はさせない――先王の計らいで、そういう取り決めになったという。


「なるほど」

王様は剣を突き付けられたまま、皮肉っぽく言った。

「許婚者だと言うが、なぜあの娘は見習い修道女姿なのだ?」


「家出して修道院に入ってしまいましてね。どうやら、わたしに愛想を尽かしたらしい」


ホークがそう言うと、あちこちから忍び笑いが漏れた。


「勝手な事、言わないでよっ!」


あたしが噛み付くと、意外な事に王様は爆笑した。


「剣を納めよ、アルス伯。王妃への忠義に免じて彼女の非礼は問わぬ。それにしても、本気であのじゃじゃ馬と結婚するつもりか?」

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