幻獣のタペストリー ~落ちこぼれ魔導士の召喚魔法~
「あんたを捕まえるに決まってるでしょ、この性悪女!」

あたしはレディ·クリスタルの上に馬乗りになった。


「性悪女ぁ? イアンのような男に守られて、脳天気に生きてきたあなたに何が分かるのよ!」

レディ·クリスタルは、下からあたしを睨みつけた。

「わたくしの父は、王位継承争いの内乱で死んだわ。前宰相と隣国の王が殺したも同然よ。母は……母は、わたくしを連れて逃げる途中で、飢えと寒さで倒れたの。とても美しい人だった。宮廷の花とまで呼ばれた母が、道端で雨と泥にまみれて死んでいったのよ! 小さかったわたくしには何もできなかった。山の獣が母の亡骸(なきがら)を引きずって行くのを見ているしかなかった。母が何をしたというの?! 何の罪もなかったのに!」


何の罪もなかった?


「ふざけんじゃないわよ!」

あたしはレディ·クリスタルの髪を掴んで、<謁見の間>の光景を見せた。

「あんたのやった事は何?! 彼らにどんな罪があったって言うの? あんたのせいで、あたしの村のおばあちゃんはヒュドラに寄生されて死んだわ。三人の孫達は孤児になり、そのうちの一人は毒づけの餌になりかけた」

あたしは泣きながら叫んでいた。

「あんたのせいで、あたしの親友は失明した。人を助けようとして失明した。何の罪もなかったのに! あんたのせいよっ!」

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