幻獣のタペストリー ~落ちこぼれ魔導士の召喚魔法~
見習い織り師

 1

「全く! イアンったら、何を考えているのかしら!」

先代伯爵婦人が苛立ったように言った。

手元にあるレース編みはグチャグチャに曲がっている。


「奥様、それをお貸し下さい」

あたしは、先代伯爵夫人からレース編みを取り上げた。

少し解けばなんとか救えそうだ。


「あなたの練習を見てあげなければいけないのに、あの女と出かけてばかり!」


先代伯爵夫人が言う『あの女』とは、レディ·クリスタルの事だ。

どうやら、先代伯爵夫人はレディ·クリスタルが嫌いみたい。


「王のご使者じゃ仕方ありません」

あたしは慎重に糸を解きながら言った。

「なんでも北の方でヒュドラが出たそうで、水に毒が混じってしまったとか。王は国中の地所を調べるおつもりだそうです」


先代伯爵夫人が『ふん!』と鼻を鳴らす。

「イアンの領地でヒュドラなんて出るわけがありません」

< 38 / 289 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop