幻獣のタペストリー ~落ちこぼれ魔導士の召喚魔法~
「さあ、お二人とも、お茶ですよ」

ミリーが明るく言う。

「周りがなんと言おうと、伯爵様はご自分の思った通りになさるんですから、お二人が何を言っても無駄です」


「それもそうね。あの子がそんなに悪趣味なわけがないわ」

先代伯爵夫人は、そう言ってあたしの方を見た。

「お茶にしましょう、サンディ――まあ! そのどうしようもないレースを綺麗にしてくれたのね!」


あたしは、舟型の糸巻きをくぐらせながらうなずいた。


「あたし、こういう事は得意みたいで」

「わたくしは駄目。上手く出来た試しがないわ」


それなら、どうしていつも編んでいるのだろう?


不思議に思っていると、先代伯爵夫人はクスッと笑った。


「亡くなった夫のせいよ。
あの方は、求婚している時にわたくしがいつもレース編みを持っているのを見て、わたくしがレースを編むのが好きだと思い込んでしまったの。結婚してからは、凝った細工の糸巻きや珍しい糸を贈られたわ。
でも、レース編みが好きだったわけではないの。殿方とお話するのが気恥しくて、何かを持っていなくては間が持たなかったからなのよ」

< 41 / 289 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop