痛いくらいの好きを君に。
「…………………奈子」
『………………な、に』
近づく距離と千尋の吐息に変な目眩を覚える。
息が出来ないとはこの事を言うんだろうか。
私は視線だけを千尋に向ける。
「………………フハっ」
『っ!?』
急に笑いを吹き出した千尋に、私の肩が軽く跳ねた。
「何緊張してんだよー」
『べっ、別にしてない、し…』
吃る私の耳元で千尋がいたずらに呟く。
「キス以外のこと、すると思った?」
『――――っ、思ってないよ!!!』
『はい、図星ー』
そう言ってニヤッと笑う千尋。
私は自分の右手を振り上げ千尋目掛けて急降下させる。
が…。
「残念でした」
千尋によってしっかりとキャッチされた私の右手。
『大人しく殴られてよ…』
「なんでだよ」
と、また笑う千尋。
そして、急に真剣な眼差しで私を見てきた。
『何で急に真顔になるのさ』
いつもならここでふざける千尋なんだけど今日は違った。
「奈子はさ、俺にキス以上の事されたいの?」
真剣な千尋。
そんな真剣な顔をして何を言ってるんだ、千尋。
『……………さ、れたくない』
千尋が何を考えてその言葉を発したのかはわからない。
「………だよな」
私の返答を聞いた後、千尋は通常に戻っていて、あの千尋が何だったのか私には解らなかった。