モラトリアムを抱きしめて
声
“ねぇ”
“どこに行くの?”
“ねぇ”
“ねぇ……”
“――夜には帰ってくるよ”
頭の奥がキーンとする。
夢を見ていた。冷たく硬い。ザラザラと心の奥にしこりを残す。あの土のような。
そっと瞼を持ち上げると、見覚えのある壁と家具。
目をあけた場所は自宅のリビング。ソファーの上だった。
意識を失っていたような、覚えているような。
自分の意識なのに不思議だけど、曖昧だった。
そういえば、あの子は?