モラトリアムを抱きしめて
世間の不平等さを知り嘆いていたのは誰よりも、兄だったのかもしれない。

そして私の願いや、思い、気持ちさえも。

私と同じ状況に置かれながら、いつも気遣ってくれたことを私は知っている。

あの頃、無知で弱い私が死ななかったのは、兄のお陰と言ってもいいだろう。

兄は真面目な男だ。たった一人の同士である私の裏切りは許せなかったに違いない。

だからと言って兄のしたことは許す事がまだできない。

けれど向き合えたのならば、もう、いや、これからも、はっちゃんではなく初美として、生きていけるのではないだろうか。


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