モラトリアムを抱きしめて
“栄養があるんだから残しちゃダメだよ”
同級生に嫌味を言われながら私のためにと、持ってきてくれた学校で余った牛乳。
家に着く頃にはいつも温くなってしまっていた。
今でもあの生温く、もったりとした喉越しをよく覚えている。
嫌いな薬でも飲むかのように、一気に流し込んでいた。
“これを飲んでいれば大丈夫だから”
不思議なもので、本当に大丈夫な気でいた。いや、記憶の限り大丈夫だった。
牛乳と兄の優しい声で作られる言葉は、本当に薬だったのかもれない。
けれど、それに気付く前に私は大人に近づかなければいけなかった。