モラトリアムを抱きしめて
お風呂場まで連れてきて、あれやこれやと説明するたびに少女は何度も頷いてくれる。

「じゃあゆっくり入っていてね、すぐ帰ってくるから」

私がそれに気付いたのは、一通り説明を終え、脱衣場を出ようとした時だった。

少女の傷は見れば見るほど痛々しい。水に当たる事を想像すると、顔を歪めてしまうほど。お風呂に入るのは可哀想だったかな……と思いながら少女を見た時、違和感を覚えた。

「あれ?こっちにも傷あったの?」

ずっと気付かなかったが、ジーンズのちょうどお尻のあたりに血が滲んでいた。

少女は「え?」と小さく声を出すと、一瞬戸惑い、そのまま顔を赤くして俯いてしまう。

「ん?もしかして―……いっ」

まただ。頭がズキっと痛む。何でこんな時に。


でも今、また倒れるわけにはいかない。


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