モラトリアムを抱きしめて
「うーん、これも大きそうだね」

いくつか服をあてたけれど、どれも少し大きそうだ。それなのにはっちゃんの瞳は宝石箱を開けたかのようにキラキラ輝いていた。

たいしたクローゼットでもないのに。

高い物はないけれど数だけは持っていた。

何故かいつも気になるのは、流行りや質もそうだけれど“同じ雰囲気に見えないか”という事。

同じ服を着ていなくても、着ているように見えてしまうのが嫌なのだ。色違いなんてもってのほかだ。

私はいつもそれが気になり、いくつもある服を組み合わせを替えて着ていた。

こだわりではなく、執着なのかもしれない。

しかしその執着が、いつからどのようにして生まれたのかはわからなかった。

無いかもしれないはっちゃんに合う服を探し、クローゼットを文字通りひっくり返していると、ひとつのニットワンピースが目にとまる。

ザックリと着るタイプのVネックの青いニットワンピース。

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