モラトリアムを抱きしめて
簡単に叶うと思っていた夢は意外にも複雑で、シンプルでありきたりな物ほど、奥が深いのかもしれない。

それは、はっちゃんが笑うのと同じで――


「あ!」

はっちゃんが何かに気が付いたのは、お喋りしながらも買う物をある程度決めた時だった。

「どうしたの?」

「お金忘れた……」

そう言えば、あの千円。きっとテーブルの上に置きっぱなしだ。

はっちゃんがどんどん落ち込んでいくのがわかる。

出会った時とは別人のように感情を表すはっちゃんを見て、顔が緩んでしまった。

「大丈夫だよ、気にしないで」

困った顔をしながら「でも……」と言うはっちゃんに「子どもが遠慮すんなっ」と、わざと普段使わない口調で言った。

それがあまりにも似合わなかったようで、はっちゃんが笑うものだから、私まで一緒になって笑ってしまった。

不思議だな。

時には親子のように、時には姉妹のように。そして友達のように。

そんな存在を私は近くに求めている。そんな気がした。


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