モラトリアムを抱きしめて
名前が同じという事も驚いたけれど、私たちは好みもよく似ていた。

例えばピンクよりも水色が好きだったり。

ぬいぐるみは大きければ大きいほど好きだったり。


「初美さん、牛乳は?」

夕飯は何を作ろうかと悩みながら食料品コーナーを回っていた時、はっちゃんが『本日の特売品』と書かれた札の前で足を止めた。

「はっちゃんが飲むなら買うけど?」

昨日、牛乳が冷蔵庫になかったのは夫が出張のため、飲む人が家にいないからだった。

私は牛乳が死ぬほど嫌いなのだ。

「初美さんは飲まないの?」

「うん、牛乳飲むくらいなら水道水がぶ飲みした方がマシだもの」

二人で人目も気にせず、何がそんなに面白いんだってほど大笑いしてしまう。

涙目になりながら息を落ち着かせたはっちゃんは、ぽつりと言った。

「実は私も嫌い。でも、飲めって言われてるの。“栄養があるから”って……それに……」


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