モラトリアムを抱きしめて
千円札
やっぱり出ないか……。
さっきから自宅に電話を何度かかけているけれど、はっちゃんは出てくれなかった。
電話について、出てほしいとも出ないでとも、言ってこなかったのだから仕方がない。
母の通夜は今夜、そして葬儀は明日になった。早く事を終わらせたい私におばちゃんが賛同するかたちで、「一日置いてから」と言う葬儀屋を説得してくれた。
しかし数日は帰ることができないと、一言伝えたかった。
いや、何だか無性に声が聴きたかっただけ。
きちんと家にいるのだろうか。
何故か胸騒ぎに似た、ゾワゾワとした感覚がさっきから私を取り巻いているため、余計にはっちゃんの事が気になるのだ。