モラトリアムを抱きしめて
復讐といっても何をするか具体的に決めていなかった。それでも、この喪服で相手に多少のダメージを与えてやろうと思っていたのは確かだった。

この喪服は恨みの象徴のようなもの。

黒いワンピースは上着を着ていても寒く、身震いした。それにウエスト辺りが少し大きい。

ぶかっとしている部分を握ると、胸までぎゅうと締め付けられてしまう。

結婚してすぐ夫の実家で不幸があり、急いで喪服を揃えた時のこと。

これを着て何とか形になったと思っていた私だったが、紋付の着物を着たお義母さん、きちんと仕立てられた物を着ている人達を見て、急に恥ずかしくなった。

こっそりと真珠のネックレスを貸してくれたお義母さんには感謝してもしきれない。

その時初めて、喪服は祝い事の時に買い、用意しておくものだと知った。

いい歳になっているのだから、真珠のネックレスくらい揃えているものだということも知った。

こういった恥ずかしさは歳を重ねる毎に増え、いつしか憎しみと恨みに変わっていった。

キリキリ胸が痛くて、余計に身体が動かない。


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