【完】無愛想彼氏
桃嘉は無表情でトイレから出てきた。
俺を見れば、その表情はすぐに消えて、「蓮?!」と驚いた顔をする。
だけど…トイレから出てきたときの、無表情の顔が頭から離れない。
桃嘉のあんな顔…初めて見た。
いつもは、笑ってる顔、照れてる顔、怒ってる顔、泣きそうな顔…そんな、豊かな表情だけだった。
だけど…今、初めて…
『無表情』
そんな桃嘉の…新しい一面を見た。
それが嬉しいことなのか、寂しいことなのか、苦しいことなのか…わからない。
だけど、わかることは…一つ。
桃嘉は何か…悩んでる。
いつも、滅多に、いや…一度も、こんな表情を見せた事はなかった。
「ご、ごめんね! 鞄!」
「いいよ、俺がもつ」
「あたしがもつ!」
桃嘉は、いつも以上に強引に俺の手から自分のバッグをとった。